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 物部康雄   YASUO MONOBE  
  わけの分からぬ家族信託


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(幻の日本一のヒバ林)


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    固定資産税

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仕事の関係で一般に家族信託と呼ばれる制度につき、少し勉強をすることになった。そして、いつものことだが、一体誰が、何の目的で、このような制度を作った(解禁した)のかと疑問を持ってしまった。弊害の方がそのメリットを上回るように思えるからである。

私は、若いころに少し米国法を勉強したことがあるせいか、以前は、日本のような社会では信託は根付かないな、と思っていた。いわゆる信託銀行と呼ばれる会社のサービスは別にして、欧米での信託が本来予定している相続の一環としての信託による財産処分は無理だろうなと思っていたわけである。それが、正に、その目的で、家族信託の俗称で最近注目を集めているようで、ネット上ではそれを主業務として売り出そうとしている専門家があふれている。そこでは、この家族信託を「家族の家族による家族のための信託」とほめそやしている。私には、信じられない光景である。

そもそも、我が国には、信託業法やそれに類したその営業面での立法はあったが、信託そのものを規定する法律はなかったし、そもそも信託業が免許制で、今でいう家族信託・民事信託を禁止していたので、実務として発展する土壌もなかったという分けである。そうした背景もあり、私は我が国では信託が一般的に普及することはないと思っていたのだが、平成19年の信託法の立法化と、免許の要らない民事ないし家族信託の解禁により、それが根付く土台ができたのだが、それでも、まさかそれが普及するとは思ってもいなかった。その予想が外れたわけである。

さて、本論に入ろう。信託のみそは、受託者と呼ばれる財産管理人の役割にある。その者のある程度自由な裁量により信託財産を効率的に運用し、受益者とされる人の利益に還元しようとする仕組みであり、誰が受託者になるかが一番の問題である。変な者を受託者にしたが最後、信託財産を食い物にされるのが落ちである。そして、「家族の家族による家族のための信託」の名の下に、正に、そうした悲劇が生じているはずである。それも、闇から闇に葬られながら。

家族信託の一番の問題は、この大事は受託者に家族をあてにしていることである。あるいは、立法者はそうではなかったのかもしれないが、今や、この免許の要らない信託は、家族信託と呼ばれるほどに、家族間でなされるのが当然とされてしまっている。しかし、これでは、本来受益者とは利害関係のないものがなるべき受託者にガチガチの利害関係を有しているものを指名しているわけであり、信託のみそがないのである。もっと言えば、信託財産が受託者に食い物にされる可能性が非常に高いわけである。

さらに困ったことに、この一見聞こえの云い「家族信託」なるものを悪用する専門家が後を絶たないと思われる状況にすらある。自己の利益を図ろうとする家族信託受託希望者が、専門知識を備えたものと組んで財産を有する家族を言葉巧みに口説き、家族信託を設定させてしまえば、後は、自由にやりたい放題という分けである。私が相談を受けた案件もまさにそのような事件と思われるところである。

そして、より本質的な問題は、何故、利害関係から逃れられない家族を受託者とするような馬鹿げたと言っていいような制度を作ったのか、あるいは運用しているのかということであろう。どうやら、営業として受託者となるには信託業法による免許の取得が必要という仕組みの反射的効果として、事実上は家族しかなれない結果となっているようである。しかし、「ただほど高いものはない」というように、この仕組みは、ドツボにはまっていると言っていい。本来なら、信託業法を、何万人という人を相手にする信託銀行等と、個人的な関係からの数名ないし数十名を相手にする専門家グループに分けて、免許制度ないし届出制度を確立し、個人が気軽に、家族以外のものに、財産を信託できる制度を作るべきだったのである。そうすれば、多分、弁護士その他の専門家の中でも、よりその立場にふさわしい者が、相応の対価で、そうした業務を引き受けることになり、結果として受益者の保護が図られるはずである。それが、そうした専門家の出番をくじき、家族を受託者に仕立て上げたために、腹に一物ある家族がこれまた問題のある専門家と組んで、家族信託を食い物にするという図式が出来上がってしまっているという分けである。私が、わけの分からない家族信託と揶揄するゆえんである。正に、なるべき人材が遠ざけられ、怪しげな人材が取り入ることができる世界となってしまっているわけである。

法律というのは、その半分は、悪い奴が、その悪い意図を隠し、綺麗ごとを並べて作るものと云える。今の家族信託は、結果としてなのかもしれないが、その一例ということであろう。



























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